コラム

有名なおもしろ心理学実験を紹介!

2022.8.16

心理学では実験を通じて、様々な現象を解明しています。そんな心理学の実験の中にはユニークで面白いものも存在します。 

心理学の研究には実験と調査という2つの代表的な手法があります。
実験とは、実験参加者に様々な課題・作業を実施してもらい、その結果をデータとして分析するというものです。
また、調査というのは、いわゆる、アンケート形式の質問に回答してもらうというものです。
今回は心理学の実験の中でも、ユニークで面白い特徴を持つものについて紹介していきたいと思います。 

無意識の欲求が幻を見せてしまう

 心理学の研究テーマに、サブリミナル・プライミングというものがあります。
これは、人間が知覚できるかできないかギリギリのレベルの短い時間(0.5秒以下など)で提示された画像や文字などが、無意識のまま人間に行動に影響を及ぼすというものです。

有名なものとしては、映画館でフィルムの中に「コーラーを飲もう」などの文字を一瞬、提示した結果、その後、映画館内でのコーラーの売れ行きが上がったというものがあります。
しかし、この実験は後に間違いであったということが報告されており、科学的に確かなものではないということになっています。 

しかし、同様の実験が別のシチュエーションで実施されており、その実験では科学的に明確な結果が出ています。
この実験は約50年以上前に実施されたものなので、パソコンやプログラミングなどは使われておらず、映画館などで使われる映写機のような機械を使用しています。
この実験の参加者には、きちんと食事をしている人々と、何時間も絶食をしている人々のグループが参加をしていました。
絶食して実験に参加したグループの中でも、一番長かったのは36時間絶食という人たちでした。
各グループの実験参加者たちは、実験責任者から「これから、一瞬だけですが、スクリーンに何かが映し出されます。
ほんの一瞬だけなので、何が映ったかは明確には分からないかもしれません。はっきりとは分からなくても良いので、回答してください」と伝えられます。
このように事前に参加者には伝えられているのですが、実はこの内容には嘘が含まれています。
スクリーンには実は何も提示されておらず、ただ単に一瞬、スクリーンが明滅するだけなのです。
つまり、実験参加者の人々は何も映っていないスクリーンを見て、何が映ったのかを回答させられているということになります。 

実験の結果、非常に興味深い結果が得られました。
絶食をしていない参加者や絶食時間が短い参加者たちは、何も見えないと回答したり、何か見えたと回答しても、その内容はまちまちでした。

しかし、36時間絶食した参加者たちは、こぞって「食べ物や飲み物が見えた」と回答したのです。これは食欲や空腹という状態が、人間の無意識に作用し、本来は何も見えないはずのものに、自身の欲求と強く結びつく「幻」を見せてしまうということを示しています。
この実験の結果から、サブリミナル・プライミングという現象は、全くのデタラメではなく、対象となる人物の欲求と強く結びつく事柄であれば、人間の無意識をコントロールできてしまうかもしれないということが判明したわけです。 

世界は意外と狭い、そしてSNSのきっかけとなった実験

 現在、SNSで世界中の人々と簡単につながることができるようになってきました。
実はこのSNSが誕生するきっかけとなったのは、心理学の実験だったのです。
元々「意外と世間は狭い」と感じるという感覚や経験が多くの人々の共通認識として存在していました。
これは日本に限ったことではなく、様々な文化・社会に共通するものであり、アメリカでは「大統領から6人」という言説が都市伝説的に語られていました。
これは誰でも知り合いの、知り合いの、またその知り合い・・・というように辿っていくと、6人以内で大統領に行きつくというものです。
これを心理学的に解明しようとしたのが、社会心理学者のスタンレー・ミルグラムが実施した以下のような手順の実験です。 

  1. アメリカのネバダ州とカンザス州に住んでいる196人に手紙を渡す。 
  2. 196人はこの手紙をネバダ州・カンザス州から1350マイル(約2100km)離れたマサチューセッツ州・ボストンに住む目標の人物に届けるという課題を課される。 
  3. 目標人物への手紙の届け方には制限があり、郵便で送ることはできず、知人に手紙を託し、 

さらにその知人が知り合いに託し・・・という形式で「人づて」で届けなければならない。 

また、その知人は氏名・年齢などを把握し、実際に会ったこともある直接的な知人に限定される。 

ミルグラムは、このような手順で手紙を届け、実験参加者と目標人物の間に何人を介在させれば到達できるかを検討しました。
実験の結果、介在者数の平均は6.2人であることが判明しています。
ただし、最終的に目標人物に辿り着いた割合は約22%であり、7割程度が目標人物に到達できずに終了してしまいました。
この実験結果は「大統領から6人」という言説が、それほど出鱈目なものではないということを示唆する結果となったのです。
このミルグラムが行った実験手続きや、その結果はスモールワールド仮説とよばれ、6人を介在させることで全くの赤の他人とも繋がりができることを六次の隔たり(Six Degrees)とよばれています。 

このミルグラムの実験はインターネットが普及する以前に行われたものでした。
その後、インターネットが誕生し、一般に普及していく過程で、オンライン上で国や地域、文化の異なる人々と自由にコミュニケーションを取ってみたいという機運が高まり、SNSが誕生していくことになります。
その際にスモールワールド仮説や六次の隔たりという現象は、インターネットでより簡単に実現可能なのではないか、本当に世界中の誰とでも6人を間に挟めば繋がれるのではないか、という考え方へと繋がっていきました。
「意外と世間は狭い」がインターネットによって「意外と地球は狭い」にまでなるかもしれないという感覚がSNSのシステム・サービスの根底にあったわけです。
そのため、SNS誕生の最初期のサービスの1つが「Six Degrees.com」であり、そのものずばり「六次の隔たり.com」という名称でした。
また、日本発の最初期のSNSサービスである「GREE」もまた、六次の隔たりの英語名に由来するものとなっています。 

精神科医は正しい診断ができるのか?

 精神疾患の診断にはDSMという診断書が使用されています。
DSMとは、精神疾患の統計・診断マニュアルとして世界的に採用されているものです。
現在、DSMの最新版は第5版であるDSM-5が出版されており、日本語版も出版されています。
DSMはアメリカ精神医学会(APA)が出版しており、各種精神疾患の捉え方・診断基準・下位分類・有病率・発症しやすい年齢・発症の男女差・有効な治療方法などについて表記されています。

精神医学におけるDSMの位置づけは、けして完璧なマニュアルではないものの、現時点で最も適切な診断基準を提示しているマニュアルというものです。
今後も、心理学・精神医学における研究が発展していくことで、さらなる改定・改良が実施されていくと考えられます。
また、日本においては、差別・偏見・誤解の少ない名称が今後も浸透していくよう改善がなされていくことになるでしょう。 

このDSMと精神疾患の診断に関して、その正確さを問う実験が実施されています。
1972年にアメリカの心理学者であるディビット・ローゼンハンは第1部と第2部の2部構成となる実験を実施しました。
ちなみに、この実験結果は著名な科学雑誌であるサイエンス誌の1973年版に掲載されました。
なお、この当時はDSM-Ⅱが診断マニュアルとして使用されていましたが、ローゼンハン実験の結果は次の版であるDSM-Ⅲの内容に大きな影響を与えたといわれています。
実験の詳細は以下のような手順で実施されました。 


 ローゼンハン本人を含む8人が病院の精神科を受診。 

「声が聞こえるんです。その声は『ドサッ』って言うんです」と嘘の症状を伝える。 

また、声の性別は自分と同じ、その声にある程度 悩まされており、友人からの薦めでこの 

病院を選んだと伝える(『ドサッ』以外に『うつろ』や『空虚』という声が聞こえるという 

訴えも使用)。 

その他の点については、氏名と職業を偽る以外は精神科医からの質問には全て正直に答える。 

 診察後にもう声は聞こえなくなったと伝える。 

 精神科医が自分たちにどのような診断を下すかを観察する。 

 ローゼンハンを含む8人全員が入院措置となる。7人が統合失調症と診断され、残りの1人は双極性障害と診断された。8人の入院日数は平均19日間、最長で52日、最短で7日間だった。 

 8人の退院理由は精神障害の寛解とされ、嘘が見破られたの でもなく、また、完全に治癒したと結論されたのでもなかった。 

(なお、入院中に8人全員が他の入院患者から「あなたは、本当は病気じゃないでしょ?」と言われ、ローゼンハンにいたっては、「あなたはたぶん教授かジャーナリストで、病院について調べてるんでしょ?」と言われた) 


このように、ローゼンハンたちは実際には健康な状態であるにもかかわらず、精神疾患であると誤診され、さらには入院することになってしまいました。
また、興味深い点として、プロの専門家である精神科医は、ローゼンハンたちの芝居にまんまと騙されてしまったにもかかわらず、あくまで一般人であるはずの入院患者たちの方が、ローゼンハンたちが「偽物の患者」であると見抜いていたということです。 

この実験結果を受けて、ローゼンハンは当時の精神疾患の診断基準や精神科医の能力には疑問が多いとい意見を提示しました。
しかし、精神科医たちからも実験に対する批判も噴出しました。
当然といえば当然ですが、精神科医は芝居やウソで患者のフリをするような人が病院に来るとは思っていないので、このような結論は心外だというわけです。
そこで、ローゼンハンは改めて実験を実施することで、この問題をより明確に検討することにしました。
2回目の実験は以下のような手順で実施されました。 


 ローゼンハンらが実施した第1実験の結果を受けて、とある病院の精神科から依頼が来る。 

 3ヶ月間、ローゼンハンが偽の患者を病院の精神科に送り込む。病院側は日々の受診・診療において、誰が本物の患者で誰がローゼンハンが送り込んだ偽患者なのかを判定する。 

③ 3ヵ月後、病院側は193人の来院者のうち、41人をローゼンハンが送り込んだ偽患者である可能性が非常に高いと判定した。 

しかし、3ヶ月の間にローゼンハンが病院に送り込んだ偽患者は実は0人であった。


この2回目の実験では「偽患者を見抜く」ということが、精神科医ができるのかどうかを検討したわけですが、結果的に「本物の患者を偽物と判断してしまう」という別の問題が発生してしまったわけです。
なぜ、1回目と2回目の実験で、このような結果が出てしまったのでしょうか。
実験が実施された当時のDSM(Ⅱ)は、診断基準に主観的な表現が多く、正確な診断が難しいという問題がありました。
また、当時は一度診断が下ってしまうと、その先入観から科学的な事実を無視してしまいがちになるということも多くありました。
こういった傾向は、たとえ専門家である医師であっても起きてしまうことであるということなのです。 

これらの結果を受けて、世界的な診断マニュアルは第3版が出版されるタイミングで、診断基準を大きく変更しました。
現在は、DSMは第5版となり、より精度の高い診断マニュアルとなっています。 

人間は合理的な意思決定や選択ができない? 

 私たちの脳は非常に高性能なコンピュータのような機能を持っています。
最近では、AIやスーパーコンピューターがチェスや将棋で人間のプロに勝つことも増えてきましたが、まだまだ人間の脳の情報処理能力はまだまだコンピュータに引けを取らないものであるといえるでしょう。
しかし、人間の情報処理能力の中でも、何かを決めたり選択したりする能力には、非合理的な部分が認められるということも判明しています。 

人間の非合理性については、主に経済心理学(行動経済学)において研究されています。
人間の意思決定や選択行動に関する心理学の分野です。
経済心理学(行動経済学)では、お金などの経済的なものだけでなく、幸福や満足などの様々な利益・損失に関する事柄を研究対象としています。
もし、人間が完璧に合理的な意思決定や選択行動ができるのであれば、経済学的・数学的に正しい判断ができ、感情などには流されないはずです。
しかし、実際には人間の判断はそこまで高い水準のものではないということが判明しています。最初期に人間の意思決定・選択行動の非合理性を明らかにしたのは、以下のような実験でした。 

『コインを投げ、コインが地面に落ちた時に表が出るまでコイン投げを続ける。1回目で表が出たら200円、2回目で表が出たら400円、3回目に表が出たら800円というように表が出るまでの回数が1回増える毎に獲得金額が2倍になる。 

このゲームに参加するためには、参加料を支払う必要があるが、あなたはいくらまでなら参加料を支払いますか?』 

このような質問をした上で、実験参加者にいくらの参加料を支払うのかを回答してもらいます。
では、一度、皆さんも自分だったら、いくらまでなら参加料を支払うかを考えてみていただければと思います。いったい、いくらになったでしょうか。 

では、このギャンブルのメカニズムを数学的に考えてみましょう。簡単な掛け算をするだけで、このギャンブルの構造が良く分かります。 

  • 1回目で表が出る確率 ⇒表か裏のどちらか = 50% 
  • 2回目で表が出る確率 ⇒ ① 裏、② 表⇒50%×50% =25% 
  • 3回目で表が出る確率   ⇒ ① 裏、② 裏、③ 表 ⇒ 50%×50%×50%=12.5% 

 ※4回目以降も同じように確率は小さくなっていくが、絶対に0%になることはない。 

 上記の確率と対応した金額を掛け合わせると、以下のようになる。 

   (50%×200円)+(25%×400円)+(12.5%×800円)・・・=∞ 

 ※確率はどんどん低くなっていくが、それに対応して金額はどんどん上がっていく。 

このように数学的に考えると、このギャンブルで得られる可能性のある報酬は「無限」になります。
従って、数学的・経済学的には獲得金額が計算上無限になるようなギャンブルなら、理論上はどんなに高い参加料を支払ってでも参加しようとするはずだということになります。 

では、皆さんが考えた参加料はいくらだったでしょうか。おそらく、10,000円や100万円などの高額な参加料を想定した人は、ほとんどいないのではないでしょうか。
これは、セント・ペテルブルクのパラドックスとよばれるもので、人間が数学的・経済学的の理論とは異なる判断をするということを示しています。 

純粋な数学や経済学では、確率と金額を掛け算することで期待値という指標を導くことができます。
基本的には、この期待値の高さが高ければ、人間は意思決定や選択行動において利益やメリットが得られるはずなので、より高い方を選ぶはずです。
また、前述のギャンブルのように理論的に無限の利益(莫大な期待値)の可能性があるならば、いくらでも参加料を支払うという決定をするはずです。
しかし、人間は確率と金額の掛け算の中に「認知」や「感情」というものを入れて判断します。
そのため、経済学や経営学、マーケティングなどの理論通りには人間は購買行動や消費行動をしないというわけです。 

 

いかがだったでしょうか。
心理学の実験にはユニークなものもありますので、興味・関心のある方は、是非、心理学について勉強してみていただければと思います。

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この記事を執筆・編集したのはこころ検定おもしろコラム編集部
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