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日常用語も心理学では〇〇になる part12

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  • 2018/07/02

― 日常と科学の間にあるもの ―
 
 心理学の辞書に掲載されている用語の中には、私たちが日常生活で当たり前のように使っている言葉を少し違った観点から捉えているものがあります。そんな「よく耳にする言葉の心理学的側面」について解説したいと思います。
 
①協力と競争
 
 協力も競争もどちらも、日常生活で使われることの多い言葉です。実は社会心理学において、協力と競争はコインの裏表のような関係性のある専門用語として使われています。集団あるいは社会において、個人は行為は互いに影響を与えあっており、人間は相互依存関係にあるといえます。現実の多様な相互依存関係には、個人に利益をもたらす行為であると同時に、他者にも利益をもたらす状況もあれば、他者の利益を損なう状況もあります。心理学者のドイッチュは前者を協力的事態、後者を競争的事態とよび、これら状況で、集団生産性・成員間の関係・個人の状態がどう違うかを検討しました。
 また、心理学者のペピトーンは、子どもを対象に発達的観点から「協力 = 競争」事態の影響を研究しています。これらの研究が心理学的な人間の協力と競争に関する科学的な研究のはじまりです。人間の相互関係は協力か競争の2つに1つではありません。協力することも競争することも可能であり、曖昧な状況の存在があることも判明しています。たとえば、囚人のジレンマとよばれるゲーム事態がその代表例です。囚人のジレンマゲームにおける心理的過程は、個人から国家間にまでわたる多様な「協力 = 競争」場面のモデルであるとされています。
 
②コーチ
 
 コーチとは単純に先生や監督などのイメージがあるかもしれません。心理学では、ある目的に向かって教え導く人のことを指し、教える人や指導者などを総称する言葉として使われています。特に運動やスポーツにおいてよく用いられており、テニス・サッカー・野球などのコーチが代表的なものとして挙げられます。また、教えたり指導したりすることをコーチングとよび、コーチにはコーチングの専門家として、各種の能力が要請されています。たとえば、自分が指導するスポーツ種目について、豊富な知識と十分な技能を有していなければならないのと同時に、それらを教えるにあたっては、そのための専門的知識や教授能力を備えもっていることが必要となります。また、スポーツ集団を管理・運営した、リーダーシップを発揮したり、指導する対象者の能力や思考などを評価し理解する一方で、個人的な問題についてのよき相談者(カウンセラー)であることも期待されています。日本においては、日本体育協会がコーチ養成講習会を実施しており、所定の課程を修了すればコーチの資格が認定されます。
 
③親密
 
 親密とは仲の良い状態というような意味で使われることが多いかと思います。親密という言葉は英語で「intimacy」と表記されますが、これはラテン語の「intimus」に由来するものであり「心の奥底」や「最も深い」などの意味があります。つまり、通常は隠されている心の奥底を相互の同意のもとに知り合うような相互依存的な対人関係という意味があるということです。親密に関する心理学的研究は多様であり、友人関係・恋愛関係・婚姻関係等に認められる態度や感情と機能、視線の交錯や対人距離など非言語的行動に認められる「親密さ」の程度、成人期前後における発達課題としての「親密 - 孤独」などのテーマで研究が実施されています。特に最も直接的に親密の問題を扱うのが社会心理学における自己開示に関連する研究です。心理学者のアルトマンとテーラーが提唱した社会的浸透理論において、親密さを表す自己情報は以下のように定義されています。
 
(1) 一般性が高い
(2) 可視性が低い
(3) 望ましくない側面が含まれる
(4) 強い感情を伴う
 
 親密さとは、このような特徴を持っており、これらを相互に交換することで次第に表層的な関係から親密な二者関係へと進展することが仮定されています。一方、発達心理学者のエリクソンは、成人期における発達的危機として「親密 - 孤独」を挙げています。これは成人期に異性の世界と関係を持つことは自己の世界観を揺るがす経験であり、自我同一性(アイデンティティ)が確立されていない場合には、良い関係性の構築・維持が困難となります。この危機を回避するには、関わりを断って孤立することが考えられますが、回避的な孤独は不適応的な結果を招くことになるとされており、孤独は回避し、親密な状態を獲得することが発達において重要であるとされています。