コラム

これも心理学なの?(2)―一見しただけでは分からない専門用語―

  • コラム
  • 2017/12/21

 心理学の専門用語の中には、一見しただけでは、意味のよく分からないものもあります。変わったネーミングや面白そうな語感のものもありますが、それぞれ専門的な意味があります。そこで、心理学の辞典に掲載されている
 
①おばあさん細胞
 
 「おばあさん細胞」と聞くと「年老いた細胞」というようなイメージを感じるかもしれません。しかし、この言葉は認知心理学・知覚心理学・神経心理学(生理心理学)と関連の深い専門用語なのです。おばあちゃん細胞に関して提唱したのは、コノルスキという科学者です。コルノスキは、感覚神経系の最も高次のレベルでは、ある一つのまとまった認識を担う単一細胞があると予想し、そのような仮説的な細胞を認識細胞と名づけました。この認識細胞仮説の考え方を極端に進めると、たとえば、自分のおばあさんの顔を認識する時にだけ活動する細胞があるはずということになるので、おばあさん細胞仮説ともいわれています。実際に,顔や手のパターンに応答するニューロンが脳の側頭葉で発見されています。ただし、本当に自分のおばあさんの顔にのみ反応する細胞が発見されたわけではなく、あくまで仮説・想定の段階となっています。
 
②賢いハンス
 
 ハンスとは実際に20世紀の初頭に四則演算(+ − × ÷ )をこなし、正しく文章を綴れるなど、信じがたい知的能力があるとされ、当時、世界を騒がせた馬の名前です。つまり「とても賢い馬のハンス」ということになります。このハンスの驚くべき能力について、ドイツの心理学者であるプフングストが心理学的な観点からの調査を実施しました。その結果、ハンスは質問者(飼い主・人間)が答を知っている場合のみ、正確に答えられることが明らかになりました。つまり、ハンスは意識せずとも生じる質問者のかすかな表情の変化や、体の動きを敏感に察知し、これを手がかりとして反応していたのです。ある意味では、ハンスは賢い馬だったかもしれませんが、本当に計算などができたわけではなく、人間側の反応を読み取り、自身の行動に反映させていただけだったのです。賢いハンスという用語は、社会心理学の専門用語として、人間や動物は他個体の表情やしぐさを手掛かりにすることが多いということを示すものとなっています。
 
③公正世界の信奉
 
 「公正世界の信奉」と聞くと、何か非常に大げさな言葉のようなイメージを受けるかもしれません。公正世界の信奉とは、世界は公正にできており、努力した者は報われ、努力しない者は報われない、あるいは、良い人には良いことが起こり、悪い人には悪いことが起こるというような信念のことです。これは、多くの人にとって、当たり前と感じたり、そうであって欲しいという感覚を得るかもしれません。心理学者のラーナーは、公正世界の信奉は多くの人々が持つ基本的な社会的信念の一つであると主張しています。人々がこのような信念をもっているからこそ、公平感や不公平感が生じるとしています。また、ある人に悪いことが起こったのは、その人が悪い人だからであり、良いことが起こったのは、その人が良い人だからであるとの帰属(理由づけ)がなされることになります。特に、何らかの不幸の犠牲者には、それなりの特性や能力上の欠陥があるものだとの帰属(理由づけ)してしまうことを、ラーナーは「犠牲者の価値低下」とよび、実証的な検討をしています。
 しかし、この公正世界の信奉は正しい信念といえるのでしょうか。どれだけ、努力をしても、それが実らないこともありますし、どれだけ手を抜き、さぼっていたとしても、大成功を収める人もいるでしょう。それは、日常生活の中で、私たちが常に感じ、悩まされていることなのではないでしょうか。それでも私たちは、努力は報われ、悪いことをした人には制裁の形で不幸が降りかかるという状態こそが「正しい世界の在り方なのだ」と考えているということなのです。

いかがだったでしょうか。言葉をただ見ただけでは分からないことも、非常に奥深いものであることが分かっていただけたのではないかと思います。言葉を1つとっても、心理学の面白さが伝わったのであれば幸いです。