コラム

記憶は衰えるのか? 

2023.2.2

心理学において記憶はどのように研究されているのでしょうか。 

年齢を経るごとに物覚えが悪くなったり、他者の顔を見ても名前が思い出せなかったりということは、誰しも経験したことがあるのではないでしょうか。
記憶力が加齢とともに低下してしまうという現象は、私たちが日々、身近な部分で経験することの多いものであると思われます。では、この記憶の衰えという問題は心理学的にどのように研究されているのでしょうか。 

長期記憶の種類

1つ目は、エピソード記憶というものです。
これは「昨日、私は夕食にステーキを食べた」のように、自分自身が経験・体験した過去の出来事に関する記憶です。
2つ目は意味記憶とよばれるものであり、これは単語の意味などを辞書的に覚えているというものです。そして、3つ目は手続き記憶とよばれるものです。
手続き記憶とは、クロールによる泳ぎ方や自転車のこぎ方などのように、身体の動かし方に関する記憶です。
これらの身体の動かし方についても、一度、覚えてしまえば生涯、忘れることがないものなので、長期記憶に分類されます。 

また、記憶には過去の記憶と未来の記憶という観点があります。
過去に関する記憶は、前述の意味記憶・エピソード記憶・手続き記憶が該当します。
そして、これとは異なるのが展望記憶とよばれるものです。
展望記憶とは、たとえば「明日は燃えるゴミの日だから、朝、会社に行く前にゴミを出そう」というようなものです。
これは明日の朝の「予定」であり、まだ経験・体験していないものなので、過去の記憶ではなく、先々の行動計画に対する記憶なのです。 

では、これらの記憶は年齢を経るごとに、どのように変化していくものなのでしょうか。
様々な心理学の研究の結果、短期記憶については、年齢を経てもほとんど衰えることはなく、加齢の影響を受けることは少ないということが判明しています。
冒頭でも例に出した「物覚えが悪くなったり」や「他者の顔を見ても名前が思い出せなかったり」というのは、記憶の区分で考えると短期記憶には該当しません。
短期記憶とは数秒から数分程度の保持時間を有する記憶であるため、高齢者であっても、その能力自体はあまり衰えないということになります。
一方で、短期記憶の一種であるワーキングメモリーは加齢の影響を強く受けるということが判明しています。
ワーキングメモリーとは、読書や作業などの状況において、既に自分がやったことのある記憶を参照したりすることで、情報処理のスピードを上げる機能を有しています。
これらの能力は年齢を経るごとに大きく低下してしまい、情報処理能力が低下してしまうのです。 

また、長期記憶の区分されるもののうち、エピソード記憶は加齢の影響を顕著に受けるということが判明しています。
過去に経験した個人的な出来事に関する記憶であるエピソード記憶は、いわゆる高齢者といわれる65歳の段階になる前の成人期の段階から、徐々に能力が低下していくことが判明しています。
一方で、同じ長期記憶であっても、辞書的な物事の意味や一般常識などに関する記憶である意味記憶は、加齢の影響をほとんど受けないということが判明しています。 

このように、記憶の衰えは全ての能力の低下ではなく、一部の記憶力だけが顕著に影響を受けるということが研究の結果として判明しています。 

記憶の衰えのように、年齢と精神的な能力の関係については、こころ検定3級の第1章で概観していますので、興味・関心のある方は、是非、勉強してみていただければと思います。 


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この記事を執筆・編集したのはこころ検定おもしろコラム編集部
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