コラム

経済と心理学の関係

2022.8.11

心理学では、お金や経済的な事柄についても研究が実施されています。 

心理学の分野の1つに、経済心理学という分野があります。
経済心理学は別名、行動経済学ともよばれ、経済学とも関係の深い分野です。
また、人間の選択行動や意思決定、それを応用した消費者行動などとも関連しています。
また、心理学の分野の中でも、学習心理学(行動分析学)や認知心理学、社会心理学、パーソナリティ心理学などの領域とも関係があります。
これは、選択行動や物事や確率に対する認識(認知)、他者との協力や競争、就職先、進学先などの意思決定、選ぶことや決めることに対するパーソナリティ(性格)の影響など、様々な心理的過程が経済心理学(行動経済学)とつながりを持っているからです。 

《経済心理学における「利益」とは》

経済心理学における「経済」とは、お金だけにかかわらず、様々な利益と損失に関するものを指します。
私たちは、なるべく利益を上げ、損失を回避しようと考え、行動しています。
それは、幸福になりたい、満足感を得たいということや、不幸や不満を回避したいということでもあります。

しかし、このような傾向があることで、私たちは合理的な意思決定や冷静な選択ができないことが多いということが分かっています。
たとえば、「3分の2の確率で賞金が獲得できるくじ引きの箱」と「3分の1の確率でハズレとなり、何も獲得できないくじ引きの箱」の2つがあるとしましょう。どちらか1つの箱からくじを引くとした場合、皆さんはどちらを選択するでしょうか。

経済心理学の実験の結果、多くの人は前者の「3分の2の確率で賞金が獲得できるくじ引きの箱」の方を選択することが判明しています。
しかし、冷静になって考えてみると、2つの箱のくじ引きの「アタリ」の確率は全く同じです。
従って、1000人にどちらの箱を選択するのかを質問した場合、2つの箱の選択率にそれほど差がでないはずです。

しかし、私たちは「損失」に敏感なため、「賞金が獲得できる」という情報と「ハズレとなる」という情報では、「ハズレとなる」という情報に強く影響を受けてしまいます。
そのため、実際は全く同じ確率でどちらの箱からも「アタリ」が出るにもかかわらず、選択に偏りが発生してしまうのです。 

また、私たちは他者から与えられる確率に関する情報を正確に理解・把握することができないということも判明しています。
研究の結果、「0%(まったくない状態)」と「100%(確実な状態)」以外の確率に関して、私たちの認識はゆがんでしまうということが分かっています。

たとえば、「5%」のような低い確率の場合、実際の確率よりも高く認識し、「95%」のような高い確率の場合、実際の確率よりも低く認識してしまうのです。
これらは他者から与えられる情報によるものなので、たとえば、ニュース番組の天気予報で気象予報士が「今日の降水確率は95%です」と言うのを聞いても、私たちの中では「80%くらい」などのように確率を低く見積もってしまうのです。

その結果、出かける際に傘を持って出かけるかどうかという意思決定が非合理的になってしまう可能性があるわけです。
このような確率に対する認識のゆがみは、傘を持って出かけるかどうかのような日常的な事柄にも影響を与えますが、命にかかわるような重大な事柄にも影響を与えることが判明しています。

たとえば、医師から「ガンの治療のために手術をする必要がありますが、手術で完治する確率は60%です」と告げられたとしましょう。
この「60%の確率で完治」という情報を受けて、手術をするか、しないかという意思決定をすることになるわけですが、医師の方は「半々(50%)よりも高い確率で成功する手術」という認識で患者に伝えているつもりでも、患者側は「60%」という確率を額面通りに受け取っているわけではないので、手術を拒否する可能性があるわけです。

自身の命にかかわるような重大な局面でも、私たちの意思決定や選択行動は非合理的になってしまうことがあるのです。
現在、経済心理学(行動経済学)の研究結果を応用し、より合理的な意思決定・選択行動に人間を導いていくということが進められており、法律や政策などにも活用されています。 

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この記事を執筆・編集したのはこころ検定おもしろコラム編集部

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