コラム

モチベーションの心理学

2022.6.16

モチベーションという言葉は最近、よく使われるようになりましたが、心理学的にはどのようなものなのでしょうか。 

モチベーションとは 

「充実感」「やりがい」を別の言葉に置き換えると「モチベーション(motivation)」になるかと思います。
これは日本語に訳すと「動機づけ」であり、私たちがあらゆる行動を実施する際の背後にあって、私たちを突き動かしている要因です。
基本的に、私たちは何をするにも動機がなければできないし、逆に他者が何かをしていたら「なぜ、やっているんですか?」というように、その動機が気になるはずです。
これは犯罪ですら「犯行の動機は?」という観点が重視されることからも分かるかと思います。では、学術的な観点から、動機づけとは、どのようなものなのでしょうか。

 心理学における「モチベーション」

心理学において、動機づけとは行動の理由を考える時に用いられる基本的な概念であり、行動を一定の方向に向けて生起させ、持続させる過程や機能の全般を指す用語です。

私たちは行動をする際に、何らかの要求・欲求を持っており、同時に要求・欲求の対象である誘因が存在する時に行動が発生すると考えられています。
さらに、要求・欲求と誘因が出会うことによって発生し、行動の直接的な推進力となる動因というものもあります。
つまり、動機づけ(充実感・やりがい)というものは、誘因というきっかけがあって、それが要求・欲求を充足してくれるものである時に、何らかの行動を起こそうという動因が生じる、という流れです。 

要求や欲求があるということは、現時点で、何かが満たされていない・充実していないということでもあります。
何らかの行動を実施する理由は「満足を得るため」や充実感を得るため」でもあります。
より根本的なところでは、動機づけには「生きていくため」という側面もあります。

生理心理学的・学習心理学的な観点からすると、身体内部におけるバランスが失われた際に、そのバランスを回復させるために、私たちは行動を起こすのであるという考え方があります。

お腹が空いたから何かを食べるというのも、喉が渇いたから何かを飲むというのも、全て「生きていたい」という動機づけによるものなのです。
これが根本にあり、そこからステップアップする形で様々な要求・欲求を充実させるようとするのが、私たちのライフスタイル・人生の基本なのです。
心理学者のマズローはこのようなステップアップを欲求階層説として、以下のように理論化しています。 

  1.  生理的欲求:食欲や睡眠欲を充実させたいという欲求の段階 
  2. 安全欲求:安心して生活したいという欲求の段階 
  3. 所属と愛情の欲求:仲間を欲しい、友人や恋人を作りたいという欲求 
  4. 承認欲求:仲間から認められたい、褒められたい・賞賛されたいという欲求 
  5. 自己実現:自分が本当にしたいこと・成し遂げたいことに対する欲求 

①と②の欲求段階は「生きたい」という動機づけに基づくものであり、まずはこれが充実していないと、いわゆる「やりがい」が必要になるような仕事や勉強などのステップに上がっていくことはできません。

その日、食べる物にも事欠き、安心して眠るための場所が確保できていないのに「一生懸命、勉強しよう」とか「仕事で成果を上げよう」とは思えないはずです。生理的欲求と安全欲求が充実してはじめて、私たちは「やりがい」を求め始めるのです。 

所属と愛情の欲求、承認欲求を充実させるためには、私たちは「他人と共に何かをする」もしくは「他人に認められる為に何かをする」ということが必要になります。
つまり、「やりがい」とは「他人の役に立ちたい」とか「褒められたい」「評価されたい」というものであるといえます。 

そして、その先にあるのが自己実現です。
これは人生の最終目標のようなものであり、他人に認められ、賞賛・評価された人のみがたどり着ける境地であるといえます。
これこそ、最大の充実感の獲得であるといえるでしょう。 

「モチベーション」の成果

「充実感」「やりがい」とは1つの形で示せるものではなく、ケースバイケースで様々な“カタチ”を持ちます。
他人に認められたいという気持ちも「やりがい」であり、自分の夢を実現させたいという気持ちも「やりがい」なのです。
人生における夢や目標を充実させる原動力が「やりがり」なのですが、これを達成するためには他者の協力が不可欠です。

そのため、1つ前のステップで他者からの賞賛や承認を得なければ、個人的な夢や目標は達成できないわけです。
そして、人生上の大きな目標を達成するためには、日々の小さな事柄にも「やりがい」を持って進めていくことが必要なのです。 

マズローの欲求階層説は人間性心理学や来談者中心療法にも影響を与えたものであり、人間とは何を目的にしているのか、という根本的な問いかけに対するある種の答えであるといえます。
やりがいやモチベーションといえば、人によって異なりますが、欲求という観点から考えると、誰しもが同じ「階段」を上っているといえるのではないでしょうか。

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