コラム

心理学と言葉の関係

2022.6.2

心理学には言葉に関する研究を専門とする言語心理学という分野があります。 

普段、私たちが使っている「言葉」にも、心理学的な要素があります。
そして、言語心理学という分野では、様々な観点から研究が進められています。 

一般的に広い意味使用される「言語」とは、文字などの記号的な概念を利用するシステムのことを指します。
それに対して、私たち人間が使う言語は「自然言語」とよばれており、他の記号システムである動物のコミュニケーション手段や、コンピュータのプログラミング言語の人工的な言語と区別されます。
私たち人間の扱う自然言語には、以下のような特徴があります。 

(1)学習の必要性 

これは、私たちは勉強しない限り言語を自由自在に扱うことができないということを意味しています。
ここで言う「学習」とは学校での勉強だけではなく、学習心理学における「新たな行動の獲得」という意味での学習です。つまり、成長・発達や養育などを通じて、生涯において学んでいくということです。 

(2)現場から離れた事象について語ることができる 

動物等のコミュニケーションは、その場に存在しないモノを言葉で説明・伝達することができません。
しかし、私たち人間の自然言語は、目の前に対象物が存在していなくても、もっと言えば「たとえば・・・」「想像してみてください・・・」というように、頭の中のイメージや思考のみでも、問題なくコミュニケーションを取ることができます。 

(3)記号が恣意性をもつ 

人間の扱う自然言語は1つの言葉が1つだけしか意味を持っていない、1つの解釈しかできないというこ  とがなく、ある程度、自由な選択・解釈が可能となっています。 

(4)記号が二重分節をもつ 

人間の扱う自然言語は、意味で分けるということと、音で分けるということの2つの手法で分割することができ、これを二重分節とよびます。
たとえば「心理学」という言葉について、意味で分けるなら「心理」と「学」になります。音で分けるとすれば「シ」「ン」「リ」「ガ」「ク」という5つの音に分けることができます。 

(5)生産性をもつ 

人間の自然言語は新しい言葉を創造することができます。
たとえば最近、若い女性を中心に流行ってい るとされている「ぴえん」という言葉は少なくとも5年前には存在すらしていない言葉です。
しかし、流行語にも取り上げられるようにすらなっています。
これはそれまで存在しなかった言葉が新たに作成され、しかも、多くの人が理解・使用しているということを示しています。 

言語心理学では、1950年代には学習心理学(行動分析学)の考え方が主流であり、子どもは白紙の状態で生まれてきて、両親を始めとする周りの人間からの言語的刺激や学校での教育によって言語を習得すると考えられていました。

これに対して、言語心理学者のノーム・チョムスキーらは、人間の言語は構造に依存した有限の規則に基づく、無限の表現を生成する装置(システム)であり、刺激と反応の関係性で発生するものではなく、もっと創造的であるのではないかと提唱し、これを生成文法とよびました。生成文法の考え方では、人間の言語は進化の過程で発生した人間という種に特有の心的器官であるということになります。 

この学習心理学(行動分析学)と生成文法の考え方の違いは、心理学の他の分野でも「遺伝か?環境か?」という問題であると考えられます。
つまり、生まれつき最初からできる(機能を備えている)のか、どのように育ったのかが重要であるのか、という対立構造です。

では、最新の研究では、この「遺伝か?環境か?」という問題はどうなっているのでしょうか。
実は他の心理学の分野と同様で、遺伝だけが重要、環境だけが重要という考え方は既に古い物であり、遺伝の要素が重要な部分と、環境の要素が重要な部分がそれぞれあり、言語とは生まれつきの能力と生まれた後の学習の両方が相互作用的に影響を及ぼし合いながら成立するということが判明しています。 

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この記事を執筆・編集したのはこころ検定おもしろコラム編集部
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