コラム

錯覚の心理学 Part1

2020.7.15

錯覚はなぜ起きるのでしょうか?心理学では知覚心理学の分野で、知覚と錯覚について様々な研究が実施されています。

私たちは目で見て、耳で聞くことで、まず何かを体験・経験するということから生活の全てがスタートします。
私たちは知覚 ⇒ 認知 ⇒ 感情 ⇒ 行動の順で心理的なプロセスが進んでいきます。
そこで、最初の知覚の部分で「誤った知覚」をしてしまうと、そのまま認知・感情・行動へと進んでいってしまうこともあります。

この「誤った知覚」が錯覚や錯視などの現象です。

私たちは基本的に普段から、ただ額面通りに物事を知覚しているわけではなく、できるだけ簡単に、できるだけ楽に物事を知覚する傾向があります。
最も有名な例では、プレグナンツの法則およびゲシュタルト要因という現象が挙げられます。

プレグナンツの法則とは、心理学者のヴェルトハイマーらが提唱したもので、モノがどのようにまとまって知覚されるのかに関する法則です。
また、まとまった知覚に及ぼす要因をゲシュタルト要因とよびます。
ゲシュタルト要因には以下のような種類があります。

  1. 連続の要因:繋がっている(繋がって見える)モノ同士をまとまって知覚する傾向
  2. 近接の要因:距離的に近くにあるモノ同士をまとまって知覚する傾向
  3. 閉合の要因:モノ同士が閉じた状態の場合、まとまって知覚されやすくなる傾向
  4. 類同の要因:形が似たモノ同士はまとまって知覚されやすくなる傾向

これらは、今から100年以上前にヨーロッパを中心に研究が進められていたゲシュタルト心理学という分野から派生したものです。
「ゲシュタルト」とはドイツ語で「形態」や「形」という意味であり、ゲシュタルト心理学とは、知覚は単なる刺激の結果によって形成されるものではなく、要素に分離・還元することができない全体的な枠組みによって生じるものであるという考え方に基づくものです。

このゲシュタルト心理学の要素は、子どもにも大人にも共通して認められるものであり、また、日本人だけではなく世界中で共通しているものです。
前述のゲシュタルト要因によって、私たちは分かり易く世界を認識することができますが、「分かり易さ」を優先してしまうが故に、知覚そのものが誤ってしまうことがあります。
たとえば、以下のような例が有名です。

ゲシュタルト崩壊

全体性を持ったまとまりのある構造から全体性が失われてしまい、構成要素それぞれの部分にバラバラに切り離して認識し直されてしまう現象のことです。

幾何学図形や文字、顔など、視覚的なものがよく知られていますが、音による聴覚刺激においても認められることが判明しています。
視覚に関するものでいえば、同じ漢字が沢山書かれていて、それを長時間見つめていると、まとまりのある1つの漢字ではなく、バラバラに知覚される現象があります。
上記画像の四角い枠の中の漢字をしばらく見続けてみてください。

どうでしょうか?本来は「怠」という1つの漢字であるにもかかわらず、「ム」「ロ」「心」という3つのバラバラの字に見える瞬間があったのではないでしょうか。
「怠」という漢字がまとまって見えるのは、ゲシュタルト要因における近接の要因によるところが大きいですが、それが前述のように大量に長時間見てしまうとゲシュタルト崩壊を起こしてしまうのです。

知覚心理学や錯覚については、こころ検定4級の第4章で概観していますので、興味・関心のある方は、是非、勉強してみていただければと思います。

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この記事を執筆・編集したのはこころ検定おもしろコラム編集部
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