コラム

学習心理学の面白さ①

  • コラム
  • 2017/10/27

― 動物は訓練次第で、どんなことでもできてしまう? ―

 こころ検定4級では、行動や反応と心の関係についての分野である、学習心理学について解説しています。学習心理学は別名、行動分析学ともよばれ、心を「行動」を通じて理解していくことをメインとしています。
 そんな学習心理学(行動分析学)では、人間だけではなく、動物の行動や反応についても研究しています。初期の学習心理学(行動分析学)の研究はラットやハトに対する実験に関するものが多いのです。動物に対して条件づけの実験を繰り返すことで、新しい行動を獲得し、レパートリーが増えていくことが判明しました。

 ラットであれば、レバーを押すという行動、ハトであればボタンをくちばしでつつくという行動を獲得できます。そして、さらに発展して、レバーであれば右のレバーだけを30回押す、ボタンであれば赤色のボタンはつつかずに緑色のボタンだけをつつくというような、少し複雑な行動も獲得することができるのです。そこで、当時の学習心理学(行動分析学)の専門家の中には、実験で様々な行動を獲得させた動物たちを率いて、全米を周るサーカス団を結成した者もいました。
 現在でも水族館のイルカがジャンプしたり、輪をくぐったりする芸を見せてくれたりしますが、実はこのような動物の芸は学習心理学(行動分析学)の知見が活かされているのです。
 イルカはそもそも、合図(笛の音)に合わせてジャンプしたり、輪をくぐるという行動レパートリーを持っているわけではありません。学習心理学(行動分析学)の知見に基づいて、エサなどを強化子とすることで、行動(反応)のきっかけを作り出し、それを繰り返すことで、新たな行動を獲得させ、維持させていくことができるのです。
 日本の水族館では、ペンギンが芸を見せてくれるところがあります。芸自体も新たな行動として獲得され、いつでもお客さんに維持されているわけです。さらには、普段生活している檻から出て、体重計に乗って体重を測り、そのまま歩いて芸を披露するステージまで歩いて行くという複雑な行動を条件づけし、最終的に係りのスタッフがそばにいなくても、ペンギンが自分で全てやれるようになりました。これは披露する芸ではありませんが、学習心理学(行動分析学)の知見を活かすと、スタッフの労力は減り、動物の方も安全に生活でき、より良い共生が可能になるのです。

 学習心理学(行動分析学)に基づく訓練を受けて見事な芸を見せてくれる動物に対して「なんて、賢いんだ!!」と思う人が多いのではないでしょうか。しかし、実際には動物の知的能力などの、いわゆる“賢さ”は芸の見事さとはあまり関係がなく、設定する条件や強化子(エサ)のタイミングさえ適切であれば、魚類やカエルなどの両生類をはじめ、トカゲなどの爬虫類、鳥類、ほ乳類、さらには昆虫などにも、様々な行動を新たに獲得させて“芸”を仕込むこともできることが判明しています。
 ただし、これらの芸は基本的に元々動物たちの習性として存在している行動の延長線上にあるものでなければ、獲得が難しいということも分かっています。ラットのレバー押しは、そもそもラットに手で何かを押したり、引いたりする行動があるからこそ、エサの提示と組み合わせることで成立するものです。ハトのボタンつつきも、ハトがくちばしで何かをつつくという行動を習性として持っているからこそ、エサの提示と組み合わせることで成立するのです。

 サーカス団を率いて動物に様々な芸を披露させていた専門家は、色々な動物に様々な行動を獲得させていたのですが、どうしても無理で、獲得させられなかった芸もありました。それは「アライグマに貯金をさせる」という芸です。アライグマはその名の通り、食べ物などを両手で持ってこすり合わせるという行動レパートリーを持っています。これは習性として元々アライグマが持っている行動です。この行動を発展させて、専門家はアライグマにコインを両手で掴ませ、掴んだまま貯金箱の前まで進ませ、コイン投入口で掴んだ手を離させるという一連の行動を訓練させました。途中までは上手くいったのですが、最後の「コインを離す」という部分だけが、どれだけ訓練してもできませんでした。それは、手で掴んでこするところまでは元々の習性としてあるのですが、その後はこすったものを食べることはあっても、手から離すということをすることはないからです。アライグマは貯金箱の前までは行くものの、貯金箱の前でコインをこすり続けているだけで、いつまでたってもコインを投入することはありませんでした。

 学習心理学(行動分析学)の知見には、限界があるものの、動物に様々な行動を獲得させることができます。そして、私たちを楽しませてくれるだけではなく、動物側にもメリットがある状態で、私たちと共生していくことにもつながるのです。