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貝にも薬物療法が効果的である!? ~少し変わった視点から心理学を考えるPart10~

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  • 2019/08/23

心理学の研究は一風変わった側面から物事を捉え、面白い結論を導き出しているものがあります。
 
心理学に関する研究は、私たち人間の“滑稽さ”や“上手く行かない歯がゆさ”についても、様々な角度から教えてくれます。
 
<貝にも薬物療法が効果的である>
 
 うつ病のなどの精神疾患の治療に薬物療法が実施されることがあります。

薬物療法は主に人間の感情に影響を及ぼし、問題のある感情を低下させ、必要な感情を増加させるという効果があります。

たとえば、不安症のクライエントには、不安というネガティブな感情を低下させる抗不安薬が効果を示しめします。

また、うつ病の場合は抑うつ、いわゆる落ち込んだ状態がひどくなってしまいます。

そこで、この落ち込みを抑える、もしくは楽しい・嬉しい・面白いという感情を増加させるための抗うつ薬が効果的です。

この抗うつ薬の中でも有名なのが、フルオキセチン(商品名:プロザック)とよばれる薬剤です。

フルオキセチンは、より専門的に説明すると選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)に分類される抗うつ薬です。

日本でも精神科・心療内科などで処方されることが多く、WHO(世界保健機関)の必須医薬品の一覧にも収録されています。

フルオキセチンは主として、うつ病の治療に用いられますが、他にも強迫症や摂食障害などの治療にも有効であるとされています。

フルオキセチンは神経伝達物質であるセロトニンの分泌に影響を及ぼす薬剤です。セロトニンとは、感情や気分のコントロール、精神の安定に深く関わっています。

セロトニンが不足すると脳の機能の低下や感情(精神)のバランスを保つことが難しくなります。

セロトニン不足はうつ病や睡眠障害などの原因になることも判明しています。

また、セロトニンは精神面だけではなく、消化や排便、体温調節など、体の様々な働きに関わっています。

このセロトニンは神経細胞のシナプスから放出された後に、再取り込み(吸収)され、再利用されるという特徴があります。

うつ状態にある人はシナプスにおけるセロトニンの濃度が低下している状態にあるとされています。

フルオキセチンはセロトニンを放出するシナプスに作用し、セロトニン再取り込みを阻害し、結果的にセロトニン濃度がある程度高く維持するという効果を示します。

このフルオキセチンが神経・精神に及ぼす効果を、人間以外を対象に検討したのがゲッティスバーグ大学のピーター・フォングです。

フォングは二枚貝にフルオキセチン(商品名:プロザック)を投与し、その影響を実験しました。

二枚貝は人間と神経系の構造が似ているため、実験対象として適切であると考えられていました。

そして、実験の結果、フルオキセチン(商品名:プロザック)を投与された二枚貝は、何も与えられていない二枚貝よりも10倍の繁殖力を示しました。

人間の場合は、前述のように感情・気分のコントロール、うつ病・睡眠障害・消化・排便・体温調節など多岐にわたる影響がありますが、二枚貝の場合は神経系の構造は似ているものの、生物としての構造は単純なため、フルオキセチンは繁殖力の増加という形で現れるわけです。

この実験を通じて、フルオキセチンの持つ問題点も明らかとなりました。

薬剤であるフルオキセチンは、基本的に人間の場合は経口投与なので、体内で消化・吸収・代謝されるはずです。

しかし、近年、うつ病のクライエントが増加する中で、フルオキセチンの消費量も増加しています。

その結果、体外に排出される際にも、全てが無害化されずに放出されるケースが増えています。

研究の結果、下水にも微量のフルオキセチンが検出されるようになっているということが判明しました。

二枚貝へのフルオキセチンの投与が10倍の繁殖力という効果を及ぼしたということは、下水から流れ出たフルオキセチンを川や海の生物が摂取してしまう可能性があるということです。

特定の生物の繁殖力が突然、10倍にもなったとすると、生態系が激変し、自然環境に悪影響を及ぼす可能性が示唆されています。