コラム

若者の恋愛離れは本当か? part1

2020.9.7

最近「若者の恋愛離れ」ということが話題になることがありますが、果たして、心理学的に「若者の恋愛離れ」という現象は本当に起きているのでしょうか?

最近、少子化や晩婚化という社会的な傾向の中で、若者の恋愛離れというテーマが論じられることが多くなっています。
これは、いわゆる「草食系男子」などのような恋愛に関する傾向の変化や、ライフスタイルの多様化の影響も大きいと考えられます。
恋愛というと何か特別、かつ、あまり学術的なものではないように感じるかもしれません。
しかし、対人関係に関する事柄としては、社会心理学の領域に「恋愛」というものが含まれており、研究も進められています。
また、若者の恋愛や結婚は発達心理学の領域とも関連が深く、精神発達という観点から恋愛(結婚)についての研究が実施されています。
では、心理学的な観点から考えた場合に、本当に「若者の恋愛離れという現象」は起きているのでしょうか?

心理学から考える知見

発達心理学では、青年期から成人初期(18歳くらい)に至る発達段階において、親密な他者との対人関係の構築が重要な課題として設定されています。
この親密な対人関係の中に“恋愛”や“恋人関係”の構築が含まれると考えられます。
恋愛は当事者同士の問題であり、当時者がこういった対人関係をどう認知し、何を望んでいるのかということを理解する必要があります。
そのため「若者が恋愛に興味がない」という結論よりも「なぜ、興味がなく、興味がないということが若者にとって、どんな意味を持っているのか?」ということを科学的に明らかにする必要があるといえるでしょう。

実際に「若者の恋愛離れ」というテーマには、具体的な数理的なデータよりも、直感や確認できる範囲内での“自分の周囲の人達の状況”に基づくものであるといえます。
そこで、当事者にとってのメリット・デメリットという観点から、実際に何が起きているのかをクローズ・アップしていくことが重要です。
そこで、実際に大学生を対象とした調査研究が実施されています。調査は全国の大学生1343人を対象とし、①現在、恋人がいる、②現在、恋人がいなくて、欲しいと思っている、③現在、恋人がいなくて、欲しいと思わない、という3つのカテゴリーのうち、どれに該当するかを調べています。

結果、①現在、恋人がいる:485名(36%)で、②現在、恋人がいなくて、欲しいと思っている:616名(46%)、③現在、恋人がいなくて、欲しいと思わない:242名(18%)となりました。
この研究結果は、少なくとも大学生に関して、【②現在、恋人がいなくて、欲しいと思っている】と回答した人の割合が最も高く【③現在、恋人がいなくて、欲しいと思わない】と回答した人の割合が最も低かったということになります。
②と③は【現在、恋人がいない】という点で共通しているので、②と③の合計人数で、再度、割合を算出すると、

  • ②と③の合計(現在、恋人がいない):858名
  • ②現在、恋人がいなくて、欲しいと思っている:616名(72%)
  • ③現在、恋人がいなくて、欲しいと思っていない:242名(28%)

従って、現在、恋人がいない大学生の7割以上が【欲しい】と思っているということになります。
これらの調査結果を考慮すると“恋愛をしたがらない”という若者が多数派ではないといえるでしょう。
また、国立社会保障・人口問題研究所が実施した調査では、18歳~34歳の独身の男女にアンケートを実施しています。
こちらも【異性との交際を望んでいない】と回答した割合は男性が20%、女性が21%という結果であり、前述の全国の大学生に対する調査結果と一致するものでした。

これらの結果に共通するものとして、若者全体の約20%がいわゆる“恋愛離れ”という状態にあるといえます。
これは半数以下という意味では、多数派ではないことは断言できるでしょう。
また“最近の若者は”という論点から“恋愛離れ”という問題を考える場合には“昔はどうだったのか?”という時系列的な比較をする必要があります。

しかし、国立社会保障・人口問題研究所が1940年から3~5年ごとに実施する調査において【異性との交際を望んでいない】という質問項目を設定したのは2010年からであり、それ以前の大規模調査の記録はありません。
つまり、今の若者が昔と比べて“恋愛離れ”の状態にあるかというと、それすらも確かなことは分からないのです。

このように、科学的根拠に基づいた調査や過去の調査結果を総合することで、世の中で囁かれている事柄の実態が少し明瞭になることもあるのです。

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