コラム

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日常用語も心理学では〇〇になる part4

2020.2.28
  • 心理学

― 日常と科学の間にあるもの ―

心理学の辞書に掲載されている用語の中には、私たちが日常生活で当たり前のように使っている言葉を少し違った観点から捉えているものがあります。
そんな「よく耳にする言葉の心理学的側面」について解説したいと思います。

①遊び

遊びとは、実は人間に特有のものであり、ホイジンガは人間を類人猿の系統として捉え場合に「遊ぶ人」(ホモ・ルーデンス)に位置づけられるとしており、遊びは高等動物の重要な特徴の1つであるとされています。
では、遊びとはどんな意味のあるものなのでしょうか。遊びの持つ意味には、いくつかの仮説があります。

  1. 余剰エネルギー説:現実の生存競争で費やされるエネルギーで余ったものが遊びに向けられている。
  2. 生活準備説:将来の生活に適応するに必要な機能の準備が遊びを通して獲得される。
  3. 反復説:人間の歴史的経験を遊びを通して繰り返す。
  4. カタルシス説:欲求不満や葛藤を遊びによって解消する。
  5. 休養説:日常生活や仕事から解放され、休養として遊びが行われている。
  6. 自己表現説:欲求などの自己表現の機会が遊びによって与えられる。

また、発達心理学の観点では、遊びには様々な種類があり、ひとり遊び・社会的遊び・機能遊び・ごっこ遊び・受容遊び・構成遊び・平行遊び・連合遊び・協同遊びなどがあるとされています。

②甘え

「甘え」と聞くと「甘えん坊」のように、何か子どものようなイメージを感じるかもしれません。
しかし、実は「甘え」とは、私たち日本人の心理的特徴を示すものとして、非常に重要な要素なのです。
1970年代に精神分析の専門家である土居健郎が日本人の精神構造や社会文化構造を理解するための重要なキーワードとして「甘え」という概念について述べてから、「甘え」は心理学の分野において学術的な用語として定着しました。
そして、土居健郎が「甘え」についての専門書を出版し、それが英訳されたことで、「甘え」という用語は世界的に有名になりました。

つまり、それまでは欧米の人々にとっては「甘え」という言葉の意味があまり理解されていなかったのです。
というよりも、欧米の文化において「甘え」という概念自体がなかったということなのです。
甘えとは「他者に愛され他者の庇護のもとに自由に振る舞いたいという欲求や感情」と定義されますが、この感覚は日本人には多く認められるものの、欧米人にはあまりピンとこない感覚なのです。

「甘え」を発達心理学の観点から考えると、養育者(主に母親)から分離したはずの乳児が、なおも養育者に依存したがる傾向であるとされています。
「甘え」は養育者との心理的なつながりを形成するためには必須のものであり、健康な精神発達には欠かせないものです。
従って、子どもが「甘え」という感覚を持っていること自体は何の問題もありません。

また、欧米人でも、子どもであれば「甘え」の感覚を持っていることは自然なことなのです。
しかし、日本では成人後も「甘え」の感覚が強く、養育者という限定された対象から、広く他者全般への依存願望として確立されていると考えられています。
そして、他者に「甘えたい」という欲求が満たされないことで、恨みやひがみなどのネガティブな感情が発生するとされています。

そして、この「甘え」は精神疾患にも関連が深いと考えられています。
たとえば、甘えたくても甘えられない状況が続くと、神経症的な症状が生じることがあります。
また、いわゆる対人恐怖という状態は、人みしりの強い人が甘えられない状況で生じるとされています。

「甘え」は日本人に特有の感覚であり、相互依存的な人間関係を許容する文化的な背景が、欧米と比較して「甘え」の発達を強く促したと考えられています。
つまり、日本人は他者に「甘えたい」という感覚があり、そして多くの人たちがその感覚を受容し、他者を「甘やかせる」という状態が成立するわけです。
ただし「甘え」という概念は「依存」や「愛着」などの学術的な用語と非常に似たものであるものの、明確な区別が難しいという問題もあります。

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